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ブログ 93歳のつぶやき 眼鏡店

ブログ 93歳のつぶやき 眼鏡店

主人の父は今年93歳になった。

今年の初めから、「眼鏡が合わない」と、こぼすようになった。
じゃ行こうと言うと、「国会中継があるから」、「時代劇が始まったから行かない」と面倒くさがっていたが、やっと今日眼鏡屋さんに連れ出した。
とっても若くて清潔な男性店員が担当してくれた。
きっと何か言うだろう、と冷や冷やしながら付き添う。
「何?学生さん?昔から私はこの眼鏡屋に来ているが、以前は私と同じ歳のしっかりした人が担当だったんだ。もういないだろうな~」
(とっくに定年でしょ?っていうか、生きている人のほうが少ないよ)と心の中で突っ込む。
担当の男性店員は、「いえ、私は何年もこちらで働いていますよ」と笑顔で答えた。
さあこれからが、本番だ。
まず、あごを乗せ、おでこを前面のバーにつける、眼球のチェックをするところで、何度説明しても、お父さんはおでこを先にバーにつけ、首を曲げられないから、あごがバーに届かない。
「お父さん、まず先にあごをここに乗せて」
「そんなこと言っても、首が動きません!!」
と少しお怒りモード。
男性店員は必死で、動こうとしないお父さんに機械を調節して合わせ、なんとかクリア。
さて次は、視力の検査だ。
「今おかけになっている眼鏡で、どんな風に見えますか?」
「モノが上下にずれて見えます。それと、夜寝ながら漫画を読んでいると、だんだん本が顔にかぶさってきて、そのうち何も見えなくなります」
私は(それって眼鏡の問題じゃないよね)と突っ込みたい気持ちを抑えながら、男性店員に笑顔を投げかけた。すると彼も、老人対応のおおらかな気持ちで聞いてくれた。
カタカナの文字を読ませるのは難なくクリア。その次に、
「これからお見せする2枚は、どっちの方が、黒い点々がはっきり見えますか?」
「・・・・・意味がわかりません!」とお父さん。
よく聞き取れないのだ。私が耳元でもう一度大きな声で繰り返した。
「はいっ!2の方が、はっきり見えます!」とお父さん。
さらに難問が続く。
「赤い二重丸は、青い十字に対してどのような位置に見えますか?上?下?右?左?」
「・・・・意味がわかりません!」
再度、同じことを耳元で大きな声で伝えた。
この頃から、男性店員は、自分も大きな声で説明するようになる。静かな眼鏡店の中で私たちのいるブースだけが全員大声だ。
そのうちに、お父さんの姿勢がだんだん崩れてくる。
「なんだかモノが二つに分かれて見えます!」とお父さん。
お父さんの身体がずり落ちてきて、眼が機械ののぞき穴と合っていないのだ。
男性店員は大声で質問しながら、腕を伸ばしてお父さんの肩を支えてくれた。
やっと検査が終わった。わかった事は、眼も筋肉なので、加齢とともに筋肉が落ちてくると視界が狭くなる。眼鏡でその視界を広げるレンズ(プリズム加工)で矯正して、よく見えるようにさせるそうだ。
このように見えるようになる、という仮のレンズで見せてもらった時に、お父さんは、
「もっとパキッと、見えるようになりたいです!」と言った。
「これ以上強く矯正すると見え過ぎて、くらくらしてしまいますので、こちらの方がよろしいと思います」と男性店員。
この飽くなき追求、もっと見たい・・・この感じが、この人を長生きさせるんだ。
以前私は、この感じが嫌でたまらなかった。
久々のお父さんの長時間の買い物だったが、期待を裏切らなかった。
ということは、私も想定外の言動を期待していたということか。なんてことだ。

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