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ブログ 94歳のつぶやき 心の中のお化け

ブログ 94歳のつぶやき 心の中のお化け

主人の父は94歳。

半世紀も使用してきたアルマイトの蒸し器を使って、ご飯をあたためるのが好き。
もう何十年もそうしてきたから、きっと電子レンジより慣れているのだ。
しかし問題は、ガス台で火を点けたら最後、100%忘れてしまう。

先日も、私達の留守中に卵かけご飯を食べようとアルマイトの蒸し器でご飯を蒸し始め、とうとう真っ黒に焦がした。
ご飯を包んでいた布巾は燃えて灰なった。
不幸中の幸い、大難が小難になり、火事にはならなかったものの、父は全然気にしていない。
という事が問題だ。
そういうネガティブな経験はすぐに忘れられるという得なのか損なのか、そういう性格なのだ。
もうこれ以上恐ろしい気分は味わいたくないから、私はアルマイトの鍋を2階の洋服ダンスの奥のほうに隠した。

私達に恐怖感を提供する、そんな父が、先日早朝起きるなり、粗相をした。
寝ぼけていたのか、結構な量の水分が、ベッドからトイレに続く道に残っている。
本人は少しだけ処置を試みて、その後疲れて机につっぷして寝てしまった様子。

私は状況を見てすぐに、濡らした雑巾を数枚持って床じゅうを拭き始めた。
その時の気持ちは、自分でも驚くほど無になっていた。
夢中で雑巾をゆすいでは絞る。そしてまた拭く。
すると不思議なことに、有り難くて目から涙があふれてきた。
嫌悪感ではない、脱力感でもない涙だった。
それまで心の中にあった大きなお化けは、私自身を押し潰していた。
「私は自由を奪われた」という苦しさと、次に何が起こるのかわからない恐怖だった。
この不思議な瞬間を迎えるまで、私は自分で自分の心をぐるぐる巻にしていた。
蚕の繭のごとく。
しかし、体を動かすことによって、恐怖は去った。
無になり、さらに妙なうれしい感覚が心臓から身体中に巡っていった。
数日前に、私は心に決めていたことがあった。
嫌々やっても、心をこめてやってもやることは同じ。
どうせやるなら、嫌々やるのは止めよう。
喜んでもらえるようにやろう。
単純だが、それだけだ。

この日の朝味わった喜びは妙にシビれる。
今もそれは続いている。
ピンチな状況と、その状況をくれた父に感謝を感じた瞬間だった。

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