ブログ 94歳のつぶやき 馬耳東風
ブログ 94歳のつぶやき 馬耳東風
主人の父は94歳。
主人は子供の頃、父の母である祖母から、「ヨシナリ(自分の息子)の言うことは、真剣に聞くな。馬耳東風」と何度も言われていたという。
そうだ、そうだったのに、私とうとうやってしまった。
父は先週、テレビを見ながら眠ってしまい、椅子から転げ落ちて肋骨を打った。
お尻、腰、脚も痛いらしく、体が思うように動かない。
そんな中、私は仕事で帰宅が9時過ぎになる日が続いた。
そのために、昼食、夕食をどんなに疲れていても用意して出かけた。
ある日父が、
「もういいかげんに、完全な主婦になりなさい。仕事なんかしなくたって食っていけるだろう」
自分の親にも言われたことがない、初めての忠告。
また、父が可笑しなことを言い始めた、と楽しみながらも半分ドキドキしてきた。
私「仕事をやめてずっと家にいるってことですか?」
父「そうだよ。だいたい朝早く出かけたり、帰りが遅いのは普通の生活じゃない。そういうのは、僕たち友人の中では、アバズレって言うんだ」
私「私は、ヤスシさんと結婚するときに、仕事も何でも好きなことをしていいよって言われたから、今までずっとやらせてもらってたの」
と私が結婚したのはヤスシさんで、あんたではないよ、ということをさりげなく押してみた。すると、
父「そうなんだよ!あいつは俺になんの断りもなく、突然結婚を決めてしまったんだ」
私は「お父さん、それは本当に悪かったですね。私のような嫁で。お父さんにとっては悪いことをしましたね」
父「そうなんだよ!」
私「お父さんが大好きな安倍さんは、女性が輝く時代を作りましょうって働く女性を応援してくれてるじゃないですか」
父「いや、安倍は、そんなことは何も言ってない」
このあたりから、私の心にスイッチが入り始めた。
同居していても、親子であっても、言っていいことと悪いことがあるだろう。
私はこの人と結婚したわけではない。線引きをしっかりしなければ。私は悪いことは何一つしていない・・・と父が思うこと、誰かがそばにいてくれると安心する気持ちをまるで考えられなかった。
そこで私は、
「お父さん、本当にすみませんね。なるだけ、私も家にいるように工夫してみます。でもね、早朝や深夜まで真面目に働いている人たちがいて、社会はなりたっているんです。アバズレなんて差別的な言葉は使ってはいけませんっ!!」
と、つい声を荒らげた。
父はシーンとして何も言い返さなかった。あー言えばこう言うの父が。
そして、今まで私は毎晩「明日は何時に何処に何しに行くのか」と、父に言わなくてはいけなかったのに、その晩は何も聞かれなかった。
父に対して一切「はい」で通してきた私が、初めてこんな言い方をしたのだ。
父も少なからず、「コイツも言うんだ」と思ったに違いない。
でも私は反省している。
馬耳東風で良かったのに。
父の気持ちを考えてみれば口から出てくる言葉も
少し違ったものになっていたかもしれないのに。
しかし今日、父が便秘の解消のためには、何を食べたらいい?と聞いてきた。
私は「お父さんは何を食べたらいいと思う?」と聞き返した。
父「肉!牛肉!」
私「野菜ですよ。お父さんは野菜をもっと食べた方がいいですよ」
と助言したら、
父「そーんな昭和の知識はだめだな」
とあっさり否定された。
やっぱり馬耳東風でいいのだ。この人は。